俺がいちばん米津玄師をまじめに聴いている

というのはさすがに言い過ぎだが、ここ数年間でそれなりにまじめに聴いてきたつもりだ。

まじめに聴くって何だって話だけどまあ「熱心に聴く」に少々の「分析的に聴く」成分を混ぜたくらいのニュアンスで言っている(完全に「分析的に聴く」となると音楽理論的なところまで分析の範囲になるし、俺は音楽理論そんなにわからないので)。

 

米津玄師の楽曲の良さとか魅力とかについてはもうそこらじゅうで語られていることなのでわざわざ俺が言うまでもない。なのでここでは俺個人のツボにハマった曲についてアルバムごとに語っていこうと思う。先に言っておくと以下は何も考えずに書き散らした駄文です。

 

1st Album『diorama』

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米津は今でこそポップスターだけど、このファーストアルバムはかなりマニアックなインディー/ギターロックをやっている。全体的に燻んだトーンのサウンドで、空虚で気怠い雰囲気に満ちていながら、かなり作り込まれていると思う。おそらく宅録がメインで、マスタリングだけ人の手が加わっていると思うが、それにしてもミックスの質が良すぎる。これミックスまでひとりでやってたとしたらすごい(宅録のボカロ曲とかだと曲がよくてもミックスがあれなことがよくある)。

ギターのリフとかはちょっと初期OGRE YOU ASSHOLEっぽさも感じるアルバム。ノイズの感じはSonic Youthかな(「TEENAGE RIOT」って曲も出してるし)。ラーメンに例えると煮干しとか魚介系。知らんけど適当に言った。

 

1.「街」

ファーストアルバムの1曲目のイントロからスライサー(っていうギターのエフェクターがある)かよ!っていうところが、もう良い。この時点でひねくれてる。

 

2.「ゴーゴー幽霊船」

Aメロの右側でめっちゃ気持ち悪い変なギターが鳴ってるのが最高。まじめにやれ。「汚物 ヤンキー 公害 メランコリー」ってフレーズも素晴らしいよね。いまだにライブでよく演奏される初期の代表曲。

 

6.「ディスコバルーン」

ノイジーなギターソロからのギター2本による単音リフ、そして再びノイジーインプロヴィゼーションへの流れが心地よい。左右それぞれから交互に聴こえる単音リフはメロディが入った途端裏表が反転する感じが実に気持ち悪くて気持ちいい。最高。

 

7.「恋と病熱」

タイトルは宮沢賢治の詩からの引用。アルバムの中ではかなり好きな曲。歌詞の内容は「乾涸びたバスひとつ」と直接にリンクしている。

 

8.「Black Sheep」

いや2番とギターソロのとこのパーカッション。頭おかしい。歌と歌詞が一致してないのも面白い。ムニャムニャ何言ってるか分からないところは歌詞カードを見ると「何を話しているのかはよくわからなかった」となっている。「Black Sheep」と繰り返し発音しているところは「黒い羊がn匹、n+1匹、n+2匹……」みたいな表記になっている。

 

9.「乾涸びたバスひとつ」

タイトなドラムスとベースラインがsyrup16gっぽい。てかsyrup好きなんだろうなあ。珍しく、というか唯一?ヨネケンのシャウトが聴ける曲。

 

10.「首なし閑古鳥」

またしても狂ったイントロ。アップテンポでノリのいいリズムなのにどこか虚しい。この明るいのか暗いのか分からない感じは「パプリカ」にも通ずるものがあると思う。

 

12.「抄本」

イントロは2分かけてギター6本重ねてる。BUMPの天体観測かよ。変なゴソゴソしたノイズで終わる。始まり方も終わり方も変なアルバム。

 

2nd Album『YANKEE』

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前作よりずいぶん分かりやすくポップになったとはいえ、ヨネケン節は健在。

いちばんゴチャゴチャしてガチャガチャしたアルバムだと思う。ごった煮とでも言うべきか。とにかくバラエティに富んでいる。

前作に続きギターが前面にフィーチャーされた楽曲が多い。めちゃくちゃカッコいいけどところどころやりすぎてる(褒めてる)ので疲れるっちゃー疲れるアルバム。ラーメンに例えると二郎。

 

2.「MAD HEAD LOVE」

曲も歌詞もMVもすごくいい。恋愛を醜さや愚かさを含んだ滑稽な戯画として俯瞰したうえでその狂気を見事に描いてると思う。「痣だらけの宇宙」って表現まじでよくない? あと「ベイビーアイラブユー」とかいう死ぬほど使い古されたフレーズをここまでフレッシュに聴かせるの地味にすごい。

 

3.「WOODEN DOLL」

BUMPだしRAD。

 

4.「アイネクライネ」

中高生人気の高いカラオケ定番曲。キーボードがいいアクセントになっている。

 

5.「メランコリーキッチン」

大好き。この16ビートのドラムとパーカッションで既に勝ってる。

 

7.「花に嵐」

鳴ってるギターが全部クソほどカッコいいしキモい。Aメロ、Bメロ、サビの後ろで鳴ってるリフが全部やりすぎ。やりすぎててキモい。キモくてカッコいい。米津ギター好きすぎだろ。この曲に関してはメロディは飾りだと思う。

 

9.「しとど晴天大迷惑」

ギター。

 

10.「眼福」

アコースティックなバラード。いわゆる普遍的なラブソングだけどコードと途中のリフが変。これを安易に弾き語りしようとするとたぶん押さえたことのないキツい運指を強要されます。サビの後のリフがスゲー気持ち悪い。何これ?許されるの?ギターソロはブルージー

 

12.「TOXIC BOY」

声ネタ曲。みんな気付いてると思うけど「チェリーボンボン」は「メランコリーキッチン」への自己言及。シンセがだいぶやらかしてる。

 

13.「百鬼夜行

「サンタマリア」のB面なのになぜかアルバムに入った曲。「MAD HEAD LOVE」と両A面だった「ポッピンアパシー」はリストラされたのに。

 

14.「KARMA CITY」

米津史上最も狂った曲。2つのメロディと歌詞が同時進行してサビで統合される。2つのメロディは歌詞も微妙に違うのでどちらが主旋律でどちらがコーラスというわけでもないっぽい。いわゆるあたおか曲。

 

15.「ドーナツホール」

最高の一言。声ネタ曲。

 

3rd Album『Bremen』

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ギターは控えめになり、シンセや打ち込みが増えた。メロディアスでポップではあるが歌詞が暗いアルバム。聴きやすいがやや印象に残りづらい曲も。音楽的にはそんなに変わったことはしていないからそんなに言及するところもない。ラーメンに例えると中華そば。

 

1.「アンビリーバーズ

俺はこれ元ネタはBUMPの「Stage of the Ground」やと思います。知らんけど。Vampire Weekendにも同名の曲あったけど。

 

11.「シンデレラグレイ」

これ、あんまり指摘してる人いないんだけど、「12時を越えて」って歌詞の後にあるブレイク(無音)が12拍(=12時を越える)なんだよね。細かすぎて伝わってないぞ。

 

13.「ホープランド」

めちゃくちゃ好きな曲。ライブでアンコールの最後にこれ聴けたの嬉しすぎた。ブリッジの歌詞がいい。

 

4th Album『BOOTLEG

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完全に名盤なんだよね。文句なしの。難点といったら前半が最強すぎて後半若干弱く感じるくらい。「BOOTLEG」というタイトルが示すとおり、「アンチ・オリジナリティ」を標榜したアルバム。つまり米津はここでは自分の音楽をパロディ的・二次的なものとして位置づけていて、ほとんどの楽曲に元ネタがある。ラーメンに例えると家系。

 

2.「LOSER」

車のCMでおなじみ。アレンジは蔦谷好位置が関わっている。有無を言わさずカッコいい。とにかくリズムがいい。

 

3.「ピースサイン

ヒロアカ効果でキッズ達にも大人気の曲。元ネタは和田光司「Butter-Fly」とのこと。サビのメロディが独特。

 

4.「砂の惑星

元々はハチ名義で発表したボカロ曲。絡み合うツインギターがテクニカル。初音ミクのコーラスが控えめに入っている。

 

5.「orion」

イントロはThe Chainsmokersの「closer」からの露骨なサンプリング。全盛期の小沢健二並みのそのまんま度。

 

6.「かいじゅうのマーチ」

これもsyrup16g「(This is not just)Song for me」が元ネタやと勝手に思ってます。根拠はない。ブリッジは「今日の日はさようなら」が元ネタかな。

 

7.「Moonlight」

繰り返される「本物なんてひとつもない」というフレーズが象徴するとおり、『BOOTLEG』というアルバムの精神的な中核を担う曲。ぜんぶ何かのコピーだし、完全なオリジナルなんてないよ、という。ポップソングとして王道のAメロ-Bメロ-サビという構成を逸脱したこんなダウナーな曲が日本でトップクラスに売れてるミュージシャンのアルバムに入ってるというのがいいね。

 

8.「春雷」

これはほんとうによくできた曲だと思う。これを聴いた時、米津玄師は作詞よりも作曲よりも編曲の才能が飛び抜けて優れていると思った。この曲の何がすごいって「音色」で、必要な場所に必要な音色がバチっとハマっている感覚。イントロのギターリフは「桜の花びらが舞い散るときの動き」を表象していると勝手に妄想している。左右に往復しながら落ちる感じね。Bメロのブレイクのあとのジャーンとかもなかなか鳴らせそうで鳴らせない音だと思う。何度聴いてもよくできた曲だなあと感心してしまう。紛うことなき名曲。

 

5th Album『STRAY SHEEP』

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アルバムとしてのまとまりは『BOOTLEG』のほうがよいと思うが、小粒揃いの良作。ラーメンに例えようと思ったけど思いつかないのでやめます。まだそこまで聴き込めていない。

 

2.「Flamingo」

声ネタてんこもりファンク。どこかで「ドンキーコング64のオープニング曲が元ネタ」という説を見たときは笑った。

 

3.「感電」

TBS系ドラマ『MIU404』の主題歌として書き下ろされた曲。かなりジャズっぽい洒脱なコード進行が使われている。ドラマではこの曲を使うタイミングを逆算して演出していたとのこと。

 

8.「Lemon」

言わずもがなの名曲。TBS系ドラマ『アンナチュラル』の主題歌として書き下ろされた曲。ロックバラードだけどリズムトラックとベースの鳴り方はトラップっぽい。例のごとく声ネタもあり、ヒップホップの要素も取り入れられている。裏で鳴ってる金属音とか、違和感の演出が洗練されている。

 

14.「海の幽霊」

アニメーション映画『海獣の子供』主題歌用の書き下ろし。エフェクトのかかったコーラスは米津が家で作ったのをスタジオに持ってきたらしい。『怪獣の子供』は本当に凄まじい狂気の作品なので、これが主題歌として渡り合えているかと言われたら米津の手に負えるレベルじゃない気もするけど健闘している(個人的にはあの映画の主題歌は平沢進レベルじゃないと厳しいと思う)。カラオケで歌うと裏声いっぱい出せるよ。

 

あと米津の曲はアルバムに収録されないシングルの3曲目とかがかなり良いんだけど、さすがにそこまで触れると長くなりすぎるのでやめときます。

 

以上、かなり適当に書き散らしてみた。俺が言いたいのはそれなりに耳の肥えた音楽好きもメジャーなJ-POPだからといって敬遠しないで聴いてくれってことです。むしろ音楽を繊細に聴く技術に長けたマニアのほうが聴いてて面白いと思う。

というわけで皆さんも米津玄師を是非聴いてみてください。よろしくお願いします。